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吉良吉影は静かに暮らしたい

2018
02,19
何から書こうか…。うむ……そう…なんだよな…。

なんというか、戦時中というと常に鬱屈していて辛くて…というイメージがあるんだけど、人はそんな中でもきっとこう…それだけじゃなかったんだよな。戦時中だって、晴美ちゃんのような子供の笑顔に救われたり、料理の嵩を増すためにいろいろと工夫したり、大切な人がちゃんと仕事場から戻ってきたり…といった救いや笑顔は確かにあったんだよな。

ただ、言うまでもないし作中でもすずさんが「良かった、良かったって…全然良くない!」みたいな事を言っていたように、これは本当にただの「不幸中の幸い」で、決してプラスではない。戦時中という状況を「良し」としてる訳ではない。

とはいえ、その時代にだって確かにあったはずの、その当時を生きた人たちの思いを全て黒く塗りつぶしてもいいのか?そういう葛藤とゆらぎが優しい絵柄で描かれている。

まずは何と言ってもすずさんのキャラが素晴らしい。あの時代を描くにあたって、こういうのほほとしたキャラクターを主軸に置くというが既にものすごい。幼少の頃の可愛いすずさんが感じた一つ一つの小さな思い出、出会い、経験に触れて、ずぶずぶと世界観に浸っていく。沼でこけたこと、お兄ちゃんにいじわるされたこと、ノートに自作のお話を描いたこと…。

作品の傾向的にハッピーエンドではないことが確定している中で、それでもすずさんが幸せにこのままと過ごせますように、と祈らずにはいられない描写の連続。この手法はどう考えてもひどい。ひどいけど「上手い」。

それでも、イメージよりもずっとすずさんは持ち前ののほほとした性格で作品は明るさを保ち続けていた。周作もあの時代の男にしては…現代の基準で考えたってかなりいい夫だったと思う。きちんとすずさんの事を愛して、大事にしていたし。何よりも最後まで生き残ってくれた。これは本当に大きい。

径子さんのツンツン態度なんて可愛いものだ。むしろ径子さん居なかったら「ハーイ!あっこです」よりもほのぼのとしてしまう。そしてなによりも晴美ちゃんがめちゃくちゃ可愛い。晴美ちゃんの無邪気なキャキャキャという笑い声がじわりじわりと日常を侵し続ける戦火の中で救いにもなっていた。

増える空襲といつの間にか日常になる空襲警報。この辺りの「日常が壊れ始める」描写もすごい。なにが日常で何が日常でないのか。気が付いたら戦火の真っ最中、というこの感じが怖い。

晴美ちゃんとすずさんの右手が失われた場面は本当につらい…。映画館で見てても声を上げたと思ったくらい衝撃だった。晴美ちゃんによって救われていた場面が相当あっただけに、それと同時に絵を描くことが好きなすずさんの右手まで持っていく容赦のなさ。晴美ちゃんを失ってすずさんに当たってしまう径子さんの気持ちも分かるよな…。何かを責めないと自分の心に折り合いがつかないんだろうな…というのが、径子さん自身も分かっているのがつらい。ただ、多分すずさんが右手を失ってなかったら、径子さんの…その…すずさんに対する憤りはもっと強かったんだろうな、とも思う。

終戦時のすずさんの慟哭もすごい。あの温和なすずさんの叫びだからこそ、余計に響く。あの放送でそれまでの「価値観」が全て崩れちゃったんだよな。右手を失ったことも、晴美ちゃんを失ったことも、戦争によるそれこそ様々な抑圧があれですべて無くなってしまった。すずさんの正確な心情を汲むことはできないのだけど、昨日までどんどん来ていた空襲が「戦争が終わったので、もう空襲はありません」とか言葉で言われてもなかなか落とし込むことはできないよな…。

それだけに、終戦を迎えた瞬間よりも、終戦日から日が進むにしたがってだんだんと「敗戦」を受け入れている描写が重かった。終戦の放送で劇的に終わるのではなく、その後の描写でじわじわとその日常をしみこませていく、というのが実にこの作品らしかった。

結局のところ、この作品はたぶん原爆が落とされた街に居たり、そういう戦争のド中心に「いなかった」人たちの物語だったのだと思う。そういう本当の中心にいた人たちは、数で言えば少数なんだけど、こういう「作品」では取り上げられやすかった。

でも、本当に大多数の人が経験した戦争というのは、こんな風に広島に新型爆弾が落とされた「らしい」とか、そういう位置だったんじゃないかな。けして戦争の「主人公」ではない人々。その様子を描いた作品だったと思う。
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